この詩のような思いは、長い人生と言えども、そう何度も経験することではない、幸せな時間でしょうね、きっと。

　そしてまた、誰でも経験できるものかというとそうでもない。だからと言って、滅多にないことかというと、そうではないかも知れない。特別な誰かと、これから婚約し、そして結婚へと歩まれる方々にとっては、心の持ちようであろうか。

　誰しも、いろいろな人との出逢いと別れがあった。そして、これからもそうであろう。また、往々にして、その新しい出逢いがある度に、本来の自分以上の姿を演じようとしていることに気がつかないでいる。

　だからこそ、『独身の人へ』のような言葉が生まれた。チョウ （愛） を追う自分の姿が見えていない。等身大ではない、得体 （えたい） の知れない、もやもやに包まれた自分の姿を。チョウ （愛） にはそれが見えていることを。

　するりと体を交わされても、何が何だか分からない。胸痛む日々が続くだろう。それでも、その胸の痛みが教えてくれるものだ。等身大の自分になれと。

　このような感覚は何も、愛がどうのこうのという問題だけではないでしょう。大事なことと思うのは、相手あればこその、胸痛む思いをすると言うことでしょうね。それなくして、次に繋がる気付きは生まれない、まさに 『良薬は心に痛し』 と言うことでしょう。

　それでも、強引に愛を掴むことに成功した人もいるかも知れない。 ところが、自分ひとりで掴んだ、自分の力で掴んだ、という意識が先に立つのであれば、この詩のような幸せな感覚とは質の異なるものでしょうね。見えるものが見えていない可能性があるからである。

　愛を得ようと、もがき苦しむことが普通の人であろうし、その経験なくして得られる喜びは、幻のような気がする。この通過儀礼のような胸の痛みに耐えて来たからこそ、 『愛を打ち明けられないでいる人へ』 や 『失恋で傷ついた人へ』 などの言葉がある、と私は思っている。

　いづれにしても、賢者だから言えた言葉ではないでしょうね。普通の生身の人間だからこそ経験した、挫折感や、悩みや、胸張り裂ける思いが、ああすればよかった、こうすればよかったという自戒の念から生まれた言葉だったのではないでしょうか。

　それはともかく、この詩のような 『特別な誰かがいる人』　の幸せな気分は、誰が何と言おうと、特上のものであろう。

ローズ The Rose
　最後に、私の自戒の念のような、ベット･ミドラー Bette Midler が歌った "The Rose" の歌詞の一部を付加えておきます。

心の問題かもしれない
　傷つくことを恐れるこころは
　　決して踊ることを学べないと

夢のようなものかも知れない
　恐れるあまり
　　目覚めることをしなければ
　　　決してチャンスはつかめないと

人の問題かもしれない
　取られるばかりと
　　思う心は
　　　与えることもしないだろうと

そして、心魂 （こころ） の問題であろう
　死を恐れるこころは
　　決して生きることを学べないと

　この歌は、宮崎駿のアニメ映画 『思い出ぽろぽろ』 の最後のシーンにも出てきました。また、ベット･ミドラー主演の映画 『ローズ』 でも、最後に歌われましたね。

　cf. 喜びの表現
　cf. 戦争や紛争状況の中では
　cf. ツバメの塒（ねぐら）帰り